建築を、「箱」から「場」へ
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- 3月3日
- 読了時間: 5分
更新日:3月5日
―120人の学生を率いる、あるリーダーの哲学

彼らの活動をたどると、そこには一つの問いが浮かび上がる。
「建築とは、何をつくることなのか。」
京都市内に、設立からわずか1年半で120名を超える規模へと成長した学生団体がある。
「KYOBI建築研究会」だ 。
だが、その急成長は偶然ではない。
代表・森田優佑さんが語ったのは、華やかな成果の裏側にある、地道に積み重ねてきた「組織の設計図」だった。
ー 団体プロフィール
団体名: KYOBI建築研究会(京都美術工芸大学)
設立: 2024年4月
メンバー数: 約120名(2026年現在)
構成: 建築学部・芸術学部の学生が所属
活動場所: 京都美術工芸大学、京都市内のリノベーション拠点「今熊野ベース」、キャンパスプラザ京都など
ー 「待っていても、人は来ない」―新入生の名前を3日で全員覚える

「どうやって人を集めるのか、よく聞かれます。でも、待っていても人は来ません。」
森田さんはそう言い切る。
120名という規模に育つまでに、彼が実践してきたのは、驚くほどアナログな方法だった。

春のサークル紹介。興味を持ってくれた新入生とはその場でLINEを交換する。そして、その日のうちに顔と名前を一致させ、「3日で全員の名前を覚える」。次に廊下ですれ違ったとき、彼は名前を呼んで声をかける。
「名前を覚えてもらえている」という事実は、新入生にとって何よりの「居場所」の証明になる。
学生たちが森田さんに惹かれる理由は、トークスキルだけではない。相手の輪の中に飛び込み、自然と関係をつくってしまうその熱量だ。
KYOBI建築研究会は、建物をつくる前に、まず「人間関係」をつくっていた。
ー プロには勝てない「箱」ではなく、学生にしか作れない「物語」を

建築を学ぶ彼らは、ある現実もよく知っている。
「箱(建物)を作るだけなら、プロの工務店に頼んだほうが絶対にいいものができる」
技術や完成度では、学生はプロにかなわない。では、自分たちがやる意味はどこにあるのか。 森田さんが出した答えは、「プロセス」と「ソフト(人間)」をつくることだった。
彼らが改修した空き家拠点。森田さんは現在、実際にそこに住みながら、活動拠点として運営している。
自らが実験台となり、地域住民や学生が入り込む「隙」のある日常をつくる 。

「作って終わり」ではない。完成した建物の中で、誰が笑い、どんな会話が生まれるのか。
その「生活の体温」まで含めて設計すること。それが、KYOBI建築研究会の考える建築だ。
ー チームのモットー
そんな空間を生み出すために、彼らが大切にしている価値観がある。
「まず、自分たちが楽しむこと。」

学生自身がワクワクできる「緩さ」や「余白」を残す。その余白があるからこそ、メンバーそれぞれの個性やアイデアが生きてくる。

完成度よりも、関わる人の表情や関係性。
KYOBI建築研究会は、建築を通して「場の空気」をつくろうとしている。
ー ターゲットは絞らない。「全員まるっと」混ぜ合わせる

――建築 × 芸術の化学反応
組織運営の常識である「ターゲット設定」を、彼らはあえて行わない。
スローガンは「誰でも来ていい」
「年齢や属性でターゲットを絞ると、来るはずだった『予想外に面白い人』まで排除してしまうことになる」
その象徴が、トライアル枠で採択された「プロジェクト マーブル」だ。
キャンパスプラザ京都の壁面にアートを描くこの企画は、普段は個々で制作している芸術学生が、地域と交わるステージとして用意された。
図面を引く建築学生と、絵筆を握る芸術学生。
異なる才能を「まるっと」混ぜ合わせることで、既存の枠に収まらない価値が生まれていく。
ー 学生PLACE+という「出島」
そんな彼らの今回の舞台でもあるキャンパスプラザ京都。その中の「学生PLACE+」は彼らが活用している場所でもある。

閉じた世界を開く「出島」として
大学の規則により、KYOBI建築研究会は「学内サークル」として位置づけられている。
だからこそ、大学の外にあり、他大学の学生や社会人が行き交う学生PLACE+は、彼らにとって社会とつながるための「出島」のような場所だ。
「大学の中にいるだけでは出会えない人や、生まれないコラボレーションがここにはある」。
泥と汗にまみれるリノベーション現場とは対照的な、開放的で整然とした打ち合わせ空間。そこで彼らはデザインを詰め、企画を練り、次の一歩を考えている。
ー 「サークル」を超えて、「都市機能」へ
森田さんが見据える未来には、二つの軸がある。
ひとつは「外」へ向かう軸。
ー外部イベントや新しいプロジェクトに切り込む部隊。
もうひとつは「中」に根を張る軸。
ー地域に腰を据え、拠点を守り、日常の交流を育む部隊。

「僕がいなくなって、ただの『箱』だけが残る状態にはしたくないんです」
だからこそ今、後輩の育成に力を入れている。
サークル活動を一過性の思い出で終わらせず、
京都のまちに残り続ける「都市機能」へと進化させるために。
【編集後記】
取材を通して強く感じたのは、KYOBI建築研究会がつくっているのは建物ではない、ということだった。彼らが組み上げているのは、「人が集まる理由」そのものだ。
木材やコンクリートだけでなく、「人の想い」や「地域の記憶」を素材にして、場を耕している。美しい空間の写真は、あくまで結果にすぎない。
その裏側には、汗をかき、人と向き合い、悩みながら続けてきた等身大の学生の姿がある。建築を、「箱」から「場」へ。その実験は、今日も京都のどこかで続いている。
話し手:
KYOBI建築研究会 代表・森田優佑さん
聞き手:
学生PLACE+事務局(岡本・内村・野見山)

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